奥多野かんな姫計劃 (Project Kanna-Hime in Okutano)

9.立処鍾乳洞小説:誰かの見た川

この小説は、群馬県多野郡中里村(現:神流町)の同人誌「雑苦罵乱 2000夏号」に「ちゃんから穴」オーナーが寄稿したもので、「立処鍾乳洞」を舞台にした小説です。
ご感想・お問い合わせはcavers_rover_in_tokyo@yahoo.co.jpまでご連絡ください。

誰かの見た川

 四方を山に囲まれた河原の風景がマキオの頭を一瞬かすめることがある。トイレの窓から、青い空を見上げた時とか、駅のベンチに腰をおろし目を閉じた瞬間とか、そんな何でもない瞬間に、その景色は頭の中を通りすぎる。それはいつもほんの一瞬でマキオがその風景の隅々まで把握できるわけではない。川面のキラキラと光る様子と、四方を囲む深い緑の山と、緑の欄干の橋。きっと小学校の遠足や、家族旅行や子供会の旅行か何かで行った場所だろうと思うのだが、これだ、と確信を持てるものはない。そして頭をかすめていく風景はいつも変わらない。
「どうかした」
 アイスコーヒーの入ったグラスの汗を集めるようにこすりながら、レイコが言った。
「マキオさん、ふとたたずむ癖があるって前から思ってたんだけど、今みたいに動きの止まる瞬間て、あなたの中で何が起こってるの?」
 濡れた手をおしぼりで拭きながらレイコはマキオの目の奥をのぞき込むようにしている。ふとたたずむ癖か?マキオは思う。自分でふとたたずむということに関して自覚を持ったことはなかったけれど、例の風景が頭をかすめる時以外にも動きを止めてふと何かを思う瞬間はあるのかもしれない。レイコをじっと見つめてレイコと一緒にいつもいること、レイコのことをいつも思っていたいとマキオは思うけれど、そんな動きを止めた瞬間にはレイコは自分の中に存在していない、おそらく。
「そう?たぶん、何か別の世界のようなものが自分の中を通りすぎるのを待ってる時なんだと思う」
 マキオはレイコの左手を見た。おしぼりの上にのせられた手は小麦色に日焼けしている。
「信号が青に変わるのを待っているような感じ?」
 レイコはマキオの目のさらに奥をのぞき込む。信号?自分の歩いている道の信号が赤に変わる。自分の道と交差している道を何かが通過する。自分はそれが通りすぎるのを待つ。信号が青に変わるまで自分の人生が一瞬休みをとる。
「信号は赤になっても一瞬で青に変わる。俺が止まってしまうのはほんの一瞬だと思うけど。俺の信号待ちの時間は長すぎる?」
「ううん、そんなことはないけど。でも何が通過しているのかとても気になる」
 信号待ちをするのは俺だけなのだろうか?マキオは家族や友人数人のことを思い浮かべてみた。その一人一人について、特別信号待ちをしていると感じたことがないのは、彼らが信号待ちをしないからなのか、それとも彼らと会って話しているときに自分がそんなことを考えたことがなかったからなのか、それはわからなかった。
 レイコはどうなんだろう―
 レイコは窓の外を見ながら、アイスコーヒーを飲んでいる。健康的に日焼けした顔には何の翳りもないように見える。でも普段とても明るいレイコも常に明るいわけではない。マキオは電話の向こうで泣き続けていたレイコのことを思い出した。レイコと出会って三年、時々そういうことがあった。別に特別な理由があるわけじゃない、ただ、とても悲しい気分になることがある。それが、レイコの説明だった。あれがレイコの信号待ちだったのではないだろうか。レイコと自分の信号の変わるサイクルは、それが同じ信号だとはとても思えないほど違っているのかもしれない。
「俺の中を通っていく世界のことを知りたい?でも、なぜだかよくわからないけど、その世界のことを言葉にしてしまうと、何かものすごく大きなものを失くしてしまいそうな気がする」
「大きなものを失くす?」
 レイコは眉をひそめて言った。
  「んー、例えば・・・例えば、こんなことかな。スチュワーデスになりたいって真剣に思って大きくなった子が就職する年になった時、突然世の中からスチュワーデスって仕事もそれに換わるような仕事もなくなってしまった」
 レイコと一緒にいながら、レイコのいない世界に入り込んでしまうことを隠そうとしている自分にマキオは気がついた。
「なるほどね。わかったような、わからないような。あとで自分なりによく考えてみる。ねえ、それより外に行こう。この店のガラス、空のほんとの色がわからないんだもの」
 レイコは明るく笑い、会社で先週特別手当をもらったからと言ってテーブルのレシートを持って立ち上がった。マキオは悪いなと言いながら、今回もまたボーナスはなしだと、自分の会社のことを思った。

   *

「空はもっともっともっと青いんじゃないかな、ほんとは。で、その青い空の下で私たちはもっともっと澄んでる。透き通ってる。そして色んなことは実はもっともっと簡単で分かり易い。そんなふうに思わない?空の本当の色を感じられれば、マキオさんも立ち止まることはなくなるし、私は訳もなく泣いたりしなくなる・・・」
 それがマキオの覚えているレイコの最後の言葉だった。その時二人はマキオのアパートから近い公園のベンチに並んで座っていた。レイコは空を見ていた。それから駅の改札まで行く間、しばらくたわいもない話をした。プラットホームへの階段を降りていくレイコを、マキオは手を振りながら見送った。そして、それきり、レイコはマキオの前から姿を消してしまった。レイコのアパートの電話は機械的な女性の声がタダイマ、ルスニシテイマスと繰り返すだけだった。三日経った夜、マキオはレイコのアパートまで行ったみた。部屋は電気が消えていて鍵が閉まっていた。ポストをあけてみるとレイコの字で「しばらく留守にします」と書かれた紙切れが一枚おいてあった。
 昼間レイコの会社に電話してみると、レイコは退職したという答えが返ってきた。特別手当が出たと言っていたのはどうも退職金だったようだ。
 レイコがいなくなって二週間が過ぎた頃、マキオの会社ではボーナス見送りの話があがった。レイコに関する不安が日に日に膨らんでいくマキオにとって、ボーナスも出ない会社に留まることは何の意味もないものになっていった。
 八月に入り暑い日が続いた。マキオの歩く道の交差点は赤信号の時間が長くなっているようだった。そして、交差する道を行くものはかつての風景ではなくレイコの思いでばかりになっていった。
 そんな盆休みを目前にした日、一通の手紙がマキオの元に届いた。レイコからの手紙だった。

   *

 マキオさん
 元気ですか。たぶん、元気じゃないんだろうと思います。ごめんなさい。突然いなくなったりして・・・。
 あなたは、私が時々情緒不安定になること知っているよね。自分で自分がどうにもならなくなるの。前に山の牧場に連れていってくれた後、しばらく会うたび電話をもらうたびに泣いてばかりいたでしょ。あの時のような状態のことなんだけどね。
 そういう時、私とてもおかしなことを思うの。例えば、何時間も何時間も川の底を流されていたいとか、ものすごい高い所からずっとずっと落ち続けてみたいとか、臭い生ゴミの中で眠りたいとか、そんなこと。私ってやっぱり変わってるよね。あなた流に言うと、信号が赤になりっぱなしになるってとこかな。
 なんで、私がこんなふうなことを思うようになったか、もちろん自分ではわからない。気がついたら、そういうことを思う自分がいた、というだけ。でも、どうなんだろう。ねえ、マキオさん。自分の中に自分で全然把握してない自分がいたり、実は自分自身のこと自分で全然わかっていなかったりってこと、マキオさんにはない?もし、あったとしたら、そう言う自分をもっと正確に知る必要があるんじゃないか、なんてふうに思ったことはない?
 私は今、私自身のこともっともっと正確に知らなくちゃいけないんじゃないかって真剣に思ってる。下らないことなのかもしれない。どうなのかな?よくわからない。でも、自分が自分で生まれて、自分のことを一番わかってるのは自分しかいないのに、その自分が自分のこと全然わかってないっていうのは、なんか、人生に対して失礼なような気がするし、嘘つきってみんなに言われてしまいそう。私の言ってることおかしいかもしれないけど、自分のことがわからなければ、もし、私が何を言ったとしても、自分のことは棚にあげていい加減なことを言ってるだけの人になってしまう、って気がしない?
 そんなわけで、私は私なりに考えて、しばらくあなたから離れて自分のことを考えてみようと思ったの。手始めに自分のことを考えるために、どんな所がいいのか考えてみた。どういう意味かっていうと、つまり、暑すぎる所では頭が動かないってことがあるとすれば、頭を動かすために暑すぎない所に行く、周りがうるさいと気が散ってだめだということになれば、静かな所に行く、っていうふうにね。で、私が今のところ出してみた結論はまず第一に世の中が明るすぎるってこと。とても明るい。明るいっていいことだと思うけど、なんかその明るさがみんな嘘っぽいのよね。明るいって言ってないと仲間はずれにされてしまうから、明るいってみんな言うし、明るくしておかないと周りから責められるから、明るくしておくって感じ。要するによく考えるととても暗いのよね。まっくら。そう、本当に真っ暗なのに、嘘の明るさで満たされている。
 なんか、わかるような気がしない?私に必要な場所。本当に本当に真っ暗な場所から始めなきゃいけない気がする。そして、その真っ暗な所で嘘じゃない光を見つけなきゃならないような気がするの。それがすべての出発。
 もし、そんな光を見つける事ができたら、私はこの世界のどこに自分が自信を持って立つことができるのかわかるような気がするし、この世界に自分が何を望んで生まれてきたのか、なんてことの答えに少し近づけるような気がする。今は自分がいったい何をしたいのか、なんていう自分の希望さえ、わからないんだもの。
 私が何か答えのようなものを見つけたとして、その後、またマキオさんの所へ帰るのか、それとももう帰らないのか、今の私にはわかりません。そして、それは、マキオさんの努力によってどうにかなる、というような問題ではありません。私自身の問題です。私は私なりの答えのようなものを見つけたとしたら、それを元にそれに従って生きていくのだと思います。何に逆らうということもなく、山の上から始まった流れに笑顔のまま流されて、本当の自分にたどり着くのだと思います。そこでは目立とうとしたり、人と自分を比べて悩んだりいい気になったり、ということから解放されて生きられるような気がします。
 私のことは気にせず、マキオさんはいつまでもマキオさんらしく、自分の人生を楽しんでください。
 では。
            レイコ
 そうだ、あなたと会った最後の日、私、嘘をつきました。特別手当は本当は退職金でした。ごめんなさい。でも、あれがあなたについた最初で最後の嘘じゃないかと思います。許してください。
 それじゃ、これでほんとにペンをおきます。
 さよなら  大好きなマキオさんへ

   *

 本当に本当に真っ暗な場所、レイコは比喩として言っているのか実際に暗い場所を言っているのか、マキオは考えた。暗い場所っていったいどんな場所のことなのだろう。本当に本当に真っ暗な場所。レイコの残した言葉が浮かぶ。
「空はもっともっともっともっと青いんじゃないかな、ほんとは。で、その青い空の下で私たちはもっともっと澄んでる。透き通ってる。そして色んなことは実はもっともっと簡単で分かり易い。そんなふうに思わない・・・」
 レイコはいつもまっすぐなのだ。複雑怪奇に入り組んだ理論ばかりの世の中に押しつぶされそうになっているに違いない。そう思った時、レイコの言葉が勢いよく胸に飛び込んできた。(色んなことは実はもっともっと簡単で分かり易い)レイコが暗いという所は確かに暗いところなのだ。実際に暗い所に違いないのだ。そして、その時、いつもの四方を山に囲まれた河原の風景が頭の中に浮かんだ。ただいつもとは違って、一瞬で消えることなく、はっきりとした映像としてしばらくの間、頭の中の一角を占め続けていた。

   *

 マキオは会社を辞めた。迷う必要は何もなかった。レイコのことを考える。自分のことを考える。それが今もっとも大切なことで、自分にできるただ一つのことであるように思われた。そして、様々なものがひとつの風景を通じて結びつこうとしている予感を感じていた。今、実際にできる行動は、レイコを探す、それだけだった。
 手がかりは何もないといえば、何もない。それでもレイコの手紙とレイコの言葉の中に充分すぎる情報があるようにも思える。それともう一つマキオの中にある風景。それは未来に出会う風景なのか、過去に見た風景なのか。マキオは目を閉じてじっと心を澄ます。色んなことは実はもっともっと簡単で分かり易い。レイコの言葉を呪文のように繰り返す。答えは自然と見えてくる。未来に出会う風景について自分は何も知らない。自分が知っているのは過去に行ったことがある場所のことだけだ。
 山の上から始まった流れ。真っ暗な所。レイコの言葉をひとつひとつ思い浮かべ、じっと心を澄ます。マキオの頭の中に大きな海のイメージが浮かんだ。マキオはその海に注ぎ込む川を探した。川を遡れ。流れをじっと見つめながら川を遡るんだ。自分に言い聞かせた。その流れのずっとずっと上流にレイコはいる、きっと・・・
 マキオは地図を開いた。いつかレイコと行った利根川を上流へ上流へと追っていった。太平洋から利根川に入るとと右は茨城県、左は千葉県銚子市になる。利根川は県境を走り続け江戸川と別れる辺りで埼玉茨城の県境を流れる川に変わる。渡良瀬川との合流地点を過ぎ更に遡ると埼玉と群馬の県境を流れる川となる。そして埼玉の本庄を越え、完全に群馬に入り、水源水上へと向かっていく。レイコは水上にいるに違いない。マキオは直感的にそう思った。
 マキオは千葉から電車を乗り継ぎ、水上に向かった。時間がかかっても新幹線を使わなかったのは、マキオの頭の中にある風景と同じものを見つけられるかもしれないと思ったからだった。ただ自分が水上に行ったことがあるのかどうかが気になった。心をじっと澄ませたマキオの中に生まれた感覚が正しいとすれば、レイコのいる場所とマキオの頭の中に浮かぶ風景は何かの関係を持っているはずだった。もちろん、そうとは限らないわけだが、それを否定してしまうとマキオの今頼っているヒントがことごとく崩れていってしまうのだった。水上駅から谷川岳方面、藤原方面とバスに乗り、人に乗せてもらい三日をかけて回ったが、マキオはただ、違う、と思っただけだった。川が違う。山が違う。水上のあちこちのスキー場でゆったりとパラグライダーが浮かんでいるのを見たが、斜面を駆け上りパラグライダーを浮かせる風にさえ、レイコがここにはいないという確信のようなものを感じるだけだった。
 マキオは力なく利根川沿いを下流に向かって走る列車に乗り、地図を出し、また利根川を指でなぞっていった。
「レイコどこにいるんだ?」
 会えないでいるとレイコはマキオの中でどんどん神聖化され、神のような存在になり、そして遠くなっていく。そんな気がする。
 マキオは心の中で叫ぶようにして言った。「レイコ、おまえは俺から離れて神になんかなってはいけない。神、神・・・」
 マキオの中で何かが引っかかった。山の上から始まった流れに笑顔のまま流されて、本当の自分にたどり着く・・・。レイコの手紙の一文を思い出しながら、マキオは慌てて地図のページをはぐった。確かにあったはずだ。そんな名前の川が。神、流れる川。なんと読むのかはわからなかったが、群馬と埼玉の境に確かに神流川という川が載っていた。

   *

 ライオンの噴水のある駅で列車を降り、マキオは、神流川沿いを登っていくバスに乗った。バスは町中を抜け、万緑の山へ向かう。バスは坂を上り続け、何度もきついカーブを曲がる。マキオの中にまた同じ疑問が甦る。俺はここに来たことがあるのか?俺の中にあった風景とレイコの居場所が関係あるなんてあまりにも勝手な思いこみじゃないのか?俺は自分の中を通過する世界のことを言葉にしてしまうと何か大きなものを失くしてしまいそうだとレイコに言った。でも言葉にするまでもなくレイコを失いそうになっている。それは、やはりレイコと一緒にいるのに、レイコだけをじっと見ていることのできない負い目からおきてしまったことなのだろうか。
 前方に大きなコンクリートのダムが見えた。ダム。流れはダムによってせき止められている。レイコが流れ続けていくことはできない。それがレイコにとっていいのか悪いのかはわからない。ただ、レイコはこのダムより上にいると言えるのかもしれない。
 バスは更に走り続ける。神流湖の神秘的な緑の水。松の木が何本も生えている島。トンネルをいくつか通ると、バスは中里村に入った。道の下の川に赤い岩が露出しているのが見えた。川の真ん中に大きな岩が居座っていた。マキオは頭の中の景色が動き始めたのを感じた。四方を山に囲まれた河原に立った自分が緑の欄干の橋に近づいていく。河原から続く坂を上り、緑の欄干の橋のたもとに辿り着く。橋の上をゆっくりと進み、やがて橋の中央あたりで止まり、川下を見る。
  バスからは右側にいくつかの石垣が見えた。左側、川の対岸に数件の人家が見えた。そしてその集落へ続く橋がマキオの目の中に激しく飛び込んできた。緑の欄干の橋!そして、その下にある四方を山に囲まれた河原!
「止めて!」
 マキオは大声で叫んだ。運転手は何事かと急ブレーキをかけた。
「ここは何ていう所ですか?」
 運転手は驚いた顔でマキオを見ながら、神ヶ原の古鉄橋だと言った。
「カガハラってどんな字を書くんですか?」
 神様、ヶ、原と運転手が説明した。神様という説明にマキオはさらに興奮した。
「この先に役場があるから、知りたいことがあったら聞いてみるといい」
 運転手の勧めに従いマキオは役場前でバスを降りた。
 役場の親切な職員の説明で河原から見える山が城山、立処山、叶山、せんげん山などという名前だという説明、恐竜の足跡、恐竜センターなどの説明を受けた。マキオは長い間、頭の中を通過していくだけだった景色を確認したくて、慌てていた。マキオが一通りの説明を受け、お礼を言い役場を出ようとしたときに、マキオは窓口の下、つまり、マキオの膝の辺りにはってある写真に気がついた。それは鍾乳洞の内部の写真だった。
「鍾乳洞があるんですか?」
「立処山を四〇分くらい登った所に入り口があるよ。」
「入場料はいくらで、どこで払えばいいんですか」
「はっ、入場料?ああ入場料はないよ。その代わり、中には電気は一切ないけどね」
「えっ、じゃあ、真っ暗ってことですか?」
「そう、真っ暗。電気もっていかないとだめだよ。鎖や梯子があるから入っていく分には困ることはないと思うけど」
 何かがある。マキオは自分が確かに何かに近づいていることを知った。そしてレイコのことを思った。おまえは今いったいどこにいるんだ?

   *

 マキオはまず、緑の欄干の橋の中央に立ち、川下を見た。間違いなくさっきまで頭の中にあったものと同じだった。ということは、とマキオは思う。俺は以前、河原から歩いてきてこの橋の中央で川下を見た・・・。いつのことだ。マキオは目を閉じ、もう一回頭の中の映像を思い浮かべた。そして、一つの違いに気がついた。欄干の高さが違うのだ。頭の中の橋の欄干はもっとずっと高い。自分の目の位置のちょっと下あたりだった。それは、つまり、子供の頃、今よりずっと背が小さかった頃の記憶に違いなかった。俺は誰と何をしにここへ来たんだろう?
 マキオは橋を渡り右に曲がり、河原に下りた。目の前に城山、右に叶山、後ろに立処山。頭の中を何度も何度も通りすぎていった風景に間違いなかった。この風景が頭の中を通りすぎるたびに自分は立ち止まっていた。信号が赤になる。自分の歩いている道と交差している道を何かが通過する?交差している道?マキオの中でまた何かが引っかかる。交差している道?それはいったい何なんだ?それはいったい誰の歩いている道?もう一人の自分?過去の自分?過去の自分っていったい誰?レイコの言葉が頭に浮かぶ。本当に本当に真っ暗な場所から始めなきゃいけない。空はもっともっと青いんじゃないかな。私たちはもっともっと澄んでる。透き通ってる・・・もっと簡単で分かり易い・・・。自分は様々な推測をつなげてここまでやってきた。それが正しかったのか、間違いばかりだったのか、それはわからない。そしてレイコの言葉もまた正しいとは限らない。世の中はレイコが思うよりも、もっとずっと複雑に絡みあってできあがっているのかもしれない。
 頭の中の映像は橋の上で止まっている。その映像に意識を集中すると逆に見えなくなってしまう。視点をずらすように意識の集中する点をずらさなければ、細部までは見えてこない。マキオは少し横を向くようにして集中するポイントをずらしてみる。
 欄干に手をかける自分の幼い手が見えた。そして、顔を下にむけたらしく、視界に靴が入ってきた。漫画のキャラクターのかかれた赤い靴。
 なに?マキオは顔をしかめた。赤い靴?これはいったい誰の記憶?誰の見たもの?俺は赤い靴なんて持っていたか?
 赤い靴はマキオの中で方向を変え、再び河原へ下りる道を歩き出した。おまえはいったい誰なんだ?マキオは心の中で叫びながらも、赤い靴の主と同じ地点に行くために再び橋に向かう坂道を上った。
 赤い靴は河原に下りる道から分かれ立処山へ向かう道を行く。こんにゃく畑が両側に広がる細い道でマキオは赤い靴に追いついた。
 赤い靴は足を早く動かしているらしかったが、コンパスが短いため進む速度はそれほどでもなかった。赤い靴が歩いている景色とマキオの見ている景色には幾分かの違いがあった。赤い靴が見ている案内板に比べマキオが見ているものは、古くなっているものが多く、中には朽ちて折れているものまであった。登山道も時折違っていた。それでもマキオはゆっくりとゆっくりと赤い靴と同じペースで登っていった。下からは川のせせらぎが聞こえていた。時々足をすべらせ、時々岩に膝をぶつけながら、歩き続けた。木に縛り付けた鎖を頼りに登り、密集して露出した根っこの階段を上がり、鍾乳洞入り口とかかれた案内板のかかった場所に出た。小さなほこらのような入れ物には登山者の感想を記すノートがおかれていた。マキオは息の荒いまま、ノートをとって中を見たが、レイコの名前はかかれていなかった。マキオの数メートル前方に腰をかがめれば入れるくらいの岩の割れ目があり、冷気が吹き出していた。それが鍾乳洞の入り口のようだった。その割れ目の前に腰を下ろし、もう一度来た道を振り返った。そして、頭の中の風景を確認しようと目を閉じた。が、もう頭の中にあの赤い靴の見ている映像はなくなっていた。大きな不安のようなものがマキオを一気に包み込んだ。そして、目を開けたマキオは視界の隅っこに赤いものがあるのを感じた。ノートのあるほこらのような入れ物の後ろ側に汚れきって古ぼけた赤い靴があった。手にとって見ると、かすかにカタカナのレイコという字が読みとれた。
「レイコ?赤い靴の持ち主はレイコ・・・」河原の風景を見ていたのはレイコ?これはレイコの記憶なのか?でも、レイコに会うずっと以前からこの川の風景は俺の中にあった・・・
 時間の前後関係がわからなくなっていく。世の中の仕組み、様々な法則がとてもあやふやな頼りないものに思えてくる。
 色々なことがみんな偶然の連続で繋がっているだけなのか?マキオは落ち着こうと鞄から水筒を出し、水を飲んだ。時計を見る。針は止まっていた。時間というものが今の自分にまったく相容れない存在のように思え、マキオは時計をはずし、ノートの隣においた。

   *

 鍾乳洞の中の空気は冷たかった。入り口付近はまだ外からの光が射し込んでいたが、その奥には何の光もなく本当の暗闇が広がっているようだった。懐中電気で奥を照らすと穴が下へ下へと延びているのが見えた。右手の側壁に固定されている鎖につかまり、少し進みアルミ製の梯子をおりた。鍾乳洞の中は霧が立ちこめていて前が見づらいと初め思ったのだが、まだ汗の止まらない自分から立ち上っている蒸気が洞内の冷気に触れ霧状になっているのだった。
 下る。そして、わずかに水の溜まった所を過ぎ、また登る。そして、また下る。入り口の大きさから比べれば洞内は想像できないほど広かった。電気を消し、しばらく立ち止まる。澄ませた耳に水滴が岩を打つ音が聞こえる。また明かりをつける。俺はもっと奥まで行かなくちゃいけない。そこに何があったとしても、何もないのだとしても。
 鎖を頼りに下へ下へ進む。足下に小さな池が現れ、洞窟は行き止まりになったマキオは池の前にある岩に腰を下ろした。体から出る熱がまだ霧を作っていた。
 深く息を吸い込む。電気を消す。本当に真っ暗なところ。レイコの言葉が浮かんだ。レイコは本当にここに来たのだろうか。そしてまだこの近くにいるのだろうか。マキオはしばらく目を開けていたが、暗闇に目が慣れるということはなかった。暗闇はいつまでたっても暗闇だった。目を開けているということ、つむっているということの違いの意味はもうわからなかった。耳を澄ます。水滴の音だけが聞こえる。水滴の音の中に美しい澄んだ、楽器のような音も混じっていた。なぜ、赤い靴にレイコと書いてあったんだろう?ずっとずっと前から頭の中を何度も通りすぎていった風景と赤い靴とレイコ、いったいどんなつながりがあるのだろう?レイコは今どこにいる?
 しばらく様々な言葉が頭の中いっぱいに駆け巡っていた。真っ暗な場所から始めなきゃいけない。何度も何度もレイコの言葉が浮かぶ。その真っ暗な所で嘘じゃない光を見つけなきゃならない・・・
 耳を澄ます。レイコの言葉が通りすぎる。心を澄ませようとする。レイコの言葉が降りかかってくる。その繰り返しも次第に終え、マキオは自分の体の中に暗闇が忍び込んでくる感覚を覚えた。その感覚は体だけでなく、心の中にまで入りこんでくるような気がした。そして暗闇に乗っ取られるようにして心は自然と澄んでいった。
 水滴の音。水滴の奏でる音楽。ただそれだけが繰り返される。いつまでもいつまでもただ水滴の音だけが繰り返される。自分という存在が意味を失っていく。それがはっきりとわかる。自分は暗闇であり、水滴であった。そこにはもう時間や空間の存在する余地すらなかった。マキオは水滴となって岩をうち続ける。マキオの中で何かが終わり、同時に何かが始まり、何かが止まり、何かが動き続けている。はりつめた静寂の一端がやがて、光に変わる。光は大きく膨らみマキオを包み込む。光には不思議な懐かしさがあった。懐かしい温かさがあった。世界には光だけが溢れていた。マキオは目を閉じる。閉じた目の中にも光は満ちている。マキオは光の中で自分が光に変わっていくのを知った。この光の中に自分は消えていく。何もかもが誰の意志でもなく、ただ振り子のように、暗闇と光の揺らぎの中を往復し続けている。自分は存在し、そして自分は存在しない・・・

   *

「ここはタトロ山って言うのよ。立つ処・・・」
 立処山の頂上からの景色は素晴らしかった。正面に叶山、左に城山。山は深い緑色でぐっと迫ってくるようだった。城山の下には神ヶ原の集落がかたまっている。神流川の下流に向けて連なる山々が見える。レイコは遠くを見ながら、マキオに話しかけている。
「本当の暗闇がこの山の鍾乳洞の中にあって、そして、私の立つべき場所がこの山頂にあって、まだいったい何が自分の希望なのかわからない私の前に叶う山、叶山が、私が希望を具体的に持つその時を待つようにしてある。素敵な場所・・・」
 レイコは空を見上げ、大きく息を吸い込んだ。息を吐き出すレイコは爽やかな笑顔をしていた。
「何をどこからどう話し始めたらいいのかわからないんだけど・・・」
「私だって同じ」
 マキオの言葉をレイコが遮るように言った。
「でも、そんなに難しいことじゃない。あなたは私をさがし、私はあなたに見つけられた」
 間違いない。マキオはそのあまりにも簡潔な答えに不安になる。
「でも、わからないことがたくさんある。俺の中を通りすぎていった風景がこの下の河原の風景だったこと。赤い靴の持ち主が誰だってこと。靴にはレイコと書いてあった。そして、鍾乳洞の中にいた俺が何故おまえと突然この山頂にいるのか?」
 レイコはマキオに背を向けて何歩か前へ進み、振り返った。そう長くはない髪が風に揺れる。
「赤い靴の持ち主は誰だったか。それはレイコと言う人。なぜって、そう書いてあるから。なぜ私たちが突然山頂にいることになったか。別に突然じゃない。でもあなたが、突然というなら、突然なのかもしれないけど、それは、あなたが私に会いたいと思って、私もあなたに会いたいと思ったから」
 レイコの答えは全然答えになっていない。マキオの中に不満ばかりが溜まっていく。
「それは、答えじゃない・・・」
「ねえ、マキオさん、あなた今たくさん足を蚊に刺されているの自分で気づいてる?気づいてないでしょ。鍾乳洞の一番奥で恐怖や不安は感じなかった?本当はそこには恐怖や不安は存在していたかもしれない。そこにはっていうより、そこにいる時のあなたの中にね。でも、それに気づかない。そういうことってたくさんあると思う。そして、逆もある。
 本当はそこにないものを感じてしまう。存在しない物、ただ自分が頭の中に勝手に作ってしまっただけの物に脅かされているってことも。
 ねえ、あなたの求めている答えは何?その質問にあなたが満足できるように私が答えられると思う?そして、そうすることにどれだけの意味がある?」
「俺の求めている答え?」
 マキオの言葉は力なく山頂の風に流されていく。レイコという名の赤い靴の主の記憶が頭の中を通りすぎる。同じ名前の女性が同じ場所に辿り着いた。二人のレイコは別人なのか?二人のレイコと自分との接点はいったい何?疑問、知りたいことがいくつもマキオの中にある。その答えをレイコが知っているのだとしたら、話はそれですべて終わり・・・。
 マキオはレイコの目をじっと見る。レイコの瞳の奥をのぞき込む。その目の奥にあるはずの暗闇を見つけようと―。
「何を隠している?ここには触れてはいけない何かがある?・・・」
 レイコは横を向いて黙り込んだ。
「おまえは、自分の中にあるまだ知らない自分や自分のわからない部分について知るためにここに来た。手紙から、その強い気持ちが伝わってきた。でも、今色々なわからないことを知ろうと必死になっている俺には、まるで知らないことは知らないままがいい、そんな言い方をしている。それは、どう考えたっておかしな話だろう」
 マキオはレイコの目の更に奥をのぞき込むようにして言った。
 レイコはマキオをずっと通り越して遙か遠くを見るような目で独り言のように呟く。
「ここには恐竜が足跡を残した一億二千万年前の地層がむき出しになっている。平将門が戦勝祈願をした丸岩の話、秩父事件の暴徒と呼ばれた人たちが集結場所にしていたなんて話のある所、そして、鍾乳洞の中に本当の暗闇があって、川が流れ、山があって、蛍が飛んで・・・」
「いいかい、例えどんなことがここであったとしても、おまえが今並べ立てたことがどんな意味を持っているとしても、もし俺が興味を持たなければ、それは、茄子の味噌炒め、きゅうりの塩もみ、まぐろのぶつ切り、なんて、前の日のおかずを並べ立てているのと少しも変わらない・・・」
 レイコは遠くを見たまま、しばらくの間黙り込んでいた。叶山の上を飛行機雲が延びていった。空に浮かんだ羽のように軽そうなすじ状の雲はどれも先がカールしていた。静かに風が吹いて足もとの草がかすかに揺れる。
「ねえ、もう一度鍾乳洞の中へ戻りましょう」
 レイコはとても悲しそうに言った。レイコの目の奥にはっきりとした暗闇が見えた。暗闇はマキオの言葉をすべて取り上げてしまうような強い力でマキオを一瞬にして包み込んでしまった。

   *

 レイコの後に続き、鍾乳洞の中へ一歩一歩進むごとに、マキオの中に一人で鍾乳洞に入った時の光の記憶が甦り始めていた。レイコは黙って奥へ奥へと進んでいく。俺はあの光の中で何を見たんだ?夢なのか現実なのかわからなくなってしまったあの光の記憶をマキオは辿った。光と闇、存在する物としない物、時間と時間の影響を受けない物、そんな中を俺達は振り子のように揺れている。俺達だけじゃない。すべての物が揺れている。
 マキオはライトの中に浮かび上がるレイコの後ろ姿に懐かしさのようなものを感じた。その懐かしさは奥へ進むごとに強まっていった。同い年の友達に比べてずっと体が小さく、何をしても勝てなかった時代があったことをマキオはふと思い出した。
「あなたの見落とした物が、この一番奥にある。あなたの座っていた石の後ろ側」
 マキオが鍾乳洞に入った時、レイコは中にいたのか、それとも後から入ってきたのか、マキオは考えながら、レイコの懐中電灯の照らす先を見た。
「なに!」
 レイコの向けた懐中電気の光の中にあったものは、漫画のキャラクターの描かれた青い靴だった。マキオが駆け寄り、手にとって見ると、その古ぼけた靴の内側にはイガラシマキオという字がかすかに読みとれた。
「今度は私がきいてもいい?」
 レイコは電気を消し、暗闇の中からマキオに問いかけた。
「それは、あなたの靴でしょ?」
 マキオは黙っていた。そうかもしれないし、そうではないかもしれない。イガラシマキオという名前、自分の子どもの頃に流行った漫画のキャラクター、頭を時折かすめていった河原の風景と併せて考えれば、それはマキオの靴に間違いなかった。
「ここで、この村で何があったんだ?」
 マキオはレイコの顔を電気で照らして言った。
「消して」
 鍾乳洞の奥に暗闇と静けさが降りる。マキオは落ち着かなくては、と大きく息を吸った。
 水滴の音が響いた。レイコは暗闇の中からマキオに語りかけた。
「ずっと前、子どもの頃、この山の下の神流川の河原で、私は体の小さな男の子と出会った。回りの子たちと比べると小さいっていう意味で、私とちょうど同じくらいの子だった。子供会か何かで大勢で来ていて、その子は鬼ごっこでずっと鬼をやっていた。その子は、自分より体の大きな友達を少しも捕まえることができなかった。私は親戚と大勢で河原に来ていた。でも私の両親だけは来られなくて、私は寂しくて、走り回ったり川に入ったり、大喜びのいとこたちから離れて、その男の子をずっと見ていた。
 お昼になってバーベキューが始まった時、私はみんなに隠れてその男の子と一緒に橋の上に行った。そこで、靴を交換した。それは友情の印みたいなことだったのか、違う理由があったのか、今はわからない。それから、二人で山を登った。小さな二人にはとてもたいへんな坂道だったけど、私は賑やかな河原から逃げ出したくて、そして、その男の子がまた午後も鬼をやらなくて済むようにって、そう思いながら登った」
 レイコはしばらく黙り込んだ。暗闇と水滴の音だけが後に残される。
「私たちは真っ暗な鍾乳洞に入っていった。そしてたぶん、ここで水滴の音をじっと聞きながら眠ってしまった」
「たぶん?」
 マキオは静かに聞き返した。
「私も覚えていない、それ以上は。気がついた時にはもう家にいた。たぶん、私もあなたも、疲れ切って眠ってしまっていて、誰かに担がれて帰ったんだと思う」
「そう・・・」
「その時、私の中で何かが変わったのかもしれない。何かが変わったっていうより、何かが始まったって言う方が合っているかもしれないけど・・・。とにかく、私が今の私になる大きなきっかけがここにあった・・・
 あなたに会うまで完全に忘れていた記憶があった。大人って呼ばれる歳になって、あなたに会ってしばらくして、私の原点に真っ暗闇がある、なんて、おかしなことを考えるようになった。そして、ここに来て色んなことを思い出した・・・」
 マキオには自分が体が小さかった頃の記憶はほんの少ししかない。自然に嫌な記憶は切り捨てられていったのかもしれない。
「ずっとずっと鬼をやめられずに走り回ってるあなたの姿、今はっきりと思い出せる。今でもとてもつらい気持ちになる。でも、今のあなたにそんなこと思い出して欲しくもないし、今のあなたと結びつけたくもなかった」
 レイコの声が微かに震えているのをマキオは感じた。レイコは自分自身を探すためにこの暗闇に来て、マキオとの過去のできごとをすっかり思い出してしまった。レイコは逆に見つけようとしていた自分自身を失ってしまうのではないだろうかとマキオは思った。そして自分を連れて山を登った幼いレイコのことを思った。レイコ、今度は俺がこの暗闇からおまえを連れ出す番だ。マキオは心の中で思った。今二人この真っ暗闇の中から、もう一度、すべてをゼロから始めよう。立処山の山頂で叶山を見ながら二人の希望を話し合おう。そうやってたくさんの人たちがここで夢を見て夢を叶えてきたに違いない。マキオは暗闇の中でレイコの手を握った。会えなかった時間を超えて、そしてこの暗闇の中でも少しも変わることのないレイコの温もりがあった。懐かしい温かさがマキオの手の中にあった。
「レイコ。何もかもが始まるのは、今からだ。俺達はこの暗闇から新しい時を始めるんだ。もう一度山頂へ行こう。この大自然の中で二人の夢について話し合おう。そして二人の夢を叶えよう」
 マキオは電気をつけ、レイコの手を引いて歩き始めた。真っ暗な所で嘘じゃない光を見つけなきゃならない、レイコの手紙の言葉が浮かんだ。そして歩きながら、自分を包み込んだ光のことを考えた。レイコの手の温かさがあの光に包まれた時の温かさと同じことに、その時初めて気がついた。

   ∧了∨
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