名栗から中沢へ越える峠の上で、三人の木樵りが休んでいると、宮本さんという名栗村の神主さんが登ってきて、しばらくいっしょに四方山話をして別れました。ところがそれから二時間ばかりたって、また木樵りが休憩していると、その神主さんが着物をボロボロにしてやってきました。どうしたのかわけを聞きますと、自分では村へ帰るつもりなのに、いつまでたってもつかず、今まで山中を歩いていたのだと、気が抜けたようなことを言うので三人で家までつれていってやったというこです。
河又部落の東のオス沢のコウモリ穴には、古貉が住んでいて、この話のように人をよく化かしました。夜道で坊主頭で提灯をつけてくるのは、必ずこのむじなであるといわれていました。村の人はなんとかしてこれをとらえようと考えて、穴の入口にヒッタクリという針金のわなを造っておきましたが、翌朝行ってみるとその太い針金も切りとられているのでした。
それから数ヶ月たった後、ある猟人が狩りに山へ入ると、大きなけものが犬に追われて、木へ登っているので撃ちとりましたら、毛が白くなっている貉でした。貉で白毛が生えるというのは、よほど年を経たものだそうですから、喜んで家に帰りさっそく毛皮をはがすと、腹のところですっぽり半分にちぎれてしまいました。よく見るとそこには針金が食いこんでいるので、これがコウモリ穴の古貉であったと知ったそうです。せっかくの毛皮が二つに切れてしまったのでは売物にならず、猟師はがっかりですが、おかげでそれからは村には怪異がなくなったということです。
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